投稿:2022.05.18 / 16:11
バレエの下肢障害 股関節インピンジメント障害
股関節インピンジメント障害の症状
このような症状があると、股関節インピンジメント障害の可能性があります。
- 股関節や鼡径部周囲の痛みが慢性化している
- グランバットマンで股関節や鼡径部周囲が痛い
- グランプリエで股関節や鼡径部周囲が痛い
- 開脚ストレッチで股関節や鼡径部周囲が痛い
- 椅子から立ち上がる際に股関節や鼡径部周囲が痛い
- 股関節の詰まり感が以前より強くなった
股関節インピンジメント障害とは
股関節インピンジメント障害の初期症状は、股関節の詰まりや引っかかりを感じ、症状が進むと股関節の痛み、鼡径部周辺の痛みを生じます。
股関節での軟骨組織の挟み込みや、骨同士の衝突が原因で起こる障害を「股関節インピンジメント障害」、または「大腿臼蓋インピンジメント障害」、英語ではfemoroacetabular impingementの略で「FAI」と言います。
股関節インピンジメント障害は、以下の2点が発生機序として重要になります。
- 股関節インピンジメント障害は股関節前方への繰り返される圧縮応力により、軟骨組織の挟み込みや、骨同士の衝突(インピンジメント)を発生します。
- 股関節インピンジメント障害は骨盤の寛骨臼(骨盤側のソケット)、もしくは大腿骨頭に骨形態の異常が存在します。
股関節インピンジメント障害は、野球、サッカー、アイスホッケー、バスケットボールなど股関節に負荷のかかるスポーツで発症リスクが高まります。
また、バレエ、新体操、チアダンスなど過度な可動域で股関節を駆使する競技でも発症リスクは高くなります。
股関節インピンジメント障害の分類
股関節インピンジメントは、骨形態の異常から以下の3つのタイプに分類されます。
●ピンサータイプ
骨盤の寛骨臼が広く変形しており、そのため大腿骨頭を過剰に覆ってしまうことにより、骨同士の衝突(インピンジメント)が生じます。30~40代の女性に多く発症します。
●キャムタイプ
大腿骨頭から頚部にかけて、本来は凹んでくびれがあるのですが、このタイプはそれがなく出っ張っているため、骨同士の衝突(インピンジメント)が生じます。20~30代の男性に多いです。
●コンバインドタイプ
ピンサータイプとキャムタイプとの混合となります。
股関節唇とは
股関節インピンジメント障害で特に注視したいことは、股関節唇損傷の有無です。
股関節唇とは、股関節のソケットの部分である寛骨臼の周りをリング状のゴムパッキンのように覆っている繊維軟骨組織で、主となる役割は2つあります。
- 関節液を閉じ込めることにより均一に荷重分散をして股関節にかかる衝撃を吸収し、滑らかな関節表面を形成します。
- 股関節に牽引ストレスがかかった際に関節内を陰圧にして骨頭の求心性を高めます。つまり股関節の安定性を高める効果です。
股関節唇損傷とは
股関節唇は前上方を損傷しやすく、また前方は血行が乏しいため、一度損傷をしてしまうと再生されにくい組織です。
股関節唇を損傷してしまうと、股関節唇自体に神経が存在するので股関節痛を生じ、そして股関節が不安定になります。
不安定な股関節を評価する以下の2つの方法があります。
●ピストンサイン
仰臥位、下肢伸展位で患側(痛めている側)の下肢を下方へ牽引すると、健側(痛めていない側)よりも患側の方が、動揺性が大きい。
●トレンデレンブルグサイン
患側で片足立ちをした際に、健側と比べてグラグラと動揺性がある。
股関節唇損傷の重症例
重症の股関節唇損傷は、悪化の道をたどってしまう可能性がありますので注意が必要です。
ゴムパッキンのように衝撃吸収作用、股関節の安定性を高める作用のある股関節唇を損傷してしまうと、その機能が失われ、股関節内への負荷が強まり関節軟骨を損傷する可能性があります。
そして更には変形性股関節症へ移行する症例もあります。
【股関節唇損傷 ⇒ 関節軟骨の損傷 ⇒ 変形性股関節症】
股関節唇と関節軟骨はレントゲンでは写らないので、MRIによる検査が必要となります。
股関節以外の部位にも痛みが出る
股関節インピンジメント障害は骨盤の寛骨臼(骨盤側のソケット)、もしくは大腿骨頭に骨形態の異常を背景とした股関節唇、または関節軟骨を損傷する病態とされていますが、多くの症例で股関節以外の部位にも痛みを生じることがあります。
股関節以外の疼痛部位としては鼡径部痛、恥骨結合部痛、大転子周囲痛、臀部の深層部痛、仙腸関節痛などがあります。
片側の股関節が痛い症例が多いのはなぜ
股関節インピンジメント障害(FAI)は、骨形態異常が背景にあることが定義されています。そして骨形態異常に左右差はなく両側に認められるとされています。
両側とも骨形態異常があるのであれば両側とも症状が出現することが通常ではないかと考えますが、片側のみの症状を有する症例が多いとされています。
それではなぜ、両側に骨形態異常があるにもかかわらず、片側にだけ痛みなどの症状を生じるのでしょうか?
その原因として考えられることは、患側の腸骨が後方へ開いている可能性が高いということです。
腸骨が後方へ開いていると、臼蓋が後方へ捻れて股関節前方がインピンジメントしやすくなります。
そして恥骨結合と仙腸関節に剪断力がかかりますので、先ほども述べた多くの症例で股関節以外の部位(鼡径部、恥骨結節部、大転子周囲、臀部の深層、仙腸関節)にも痛みを生じる原因となるのではないかと考えられます。
骨盤の後傾が不足している
股関節インピンジメント障害では、健常者と比べて骨盤の後傾が不足していという調査があります。
そこで、股関節を屈曲する際の股関節と骨盤体(腰椎と骨盤)の運動比率を説明します。
若年層は「股関節:骨盤体 = 3:1」に対して、中高年層では「股関節:骨盤体 = 5:1」となります。
つまり加齢とともに腰椎と骨盤の動きが悪くなり、股関節の動きに依存していることになります。
加齢の問題だけではなく、アスリートとしても言えることは、競技レベルの高い人ほど体幹のブレが少なく、骨盤体を後傾しながら股関節を動かしていることに対して、競技初心者の人は骨盤体の後傾が不足して股関節の動きに依存している傾向にあります。
骨盤帯の後傾方向へのモビリティ(可動性)を向上させることが、股関節に加わる圧縮応力を軽減することができ、症状改善に繋がるのではないかと考えます。
バレエでの原因
バレエは、股関節の可動域を最大限に駆使する競技特性から、股関節インピンジメント障害を発症するリスクは高いと考えます。
股関節の前方に加わる圧縮応力の原因となる不良姿勢は、バレエ動作として以下が考えられます。
- 反り腰で固まっている
- 骨盤が過度な前傾位で固まっている
- 骨盤前傾や反り腰でのアンディオール
- 骨盤前傾や反り腰でのアラセゴン
- 骨盤前傾や反り腰でのドゥバン
- 骨盤前傾や反り腰でのプリエ
一般的な病院での治療法
MRI、CT等の画像診断後、まずは痛み止め、注射、物理療法、筋力トレーニングなどの保存療法で様子を見るケースが多いです。
保存療法での経過が悪い場合は手術の可能性も出てきます。
当院での治療方法
診断について
股関節インピンジメント障害の診断は、病院でMRI、CT等の画像診断が必要となります。その後、当院で保存療法を希望される場合は可能となります。
疼痛部位に対して
当院では股関節周囲の筋肉の緊張や癒着が、股関節インピンジメント障害の原因となっている可能性があると考えております。
手技療法、衝撃波(圧力波)治療器、ラジオ波治療器、スーパーライザー光線治療器、鍼治療などを用いて股関節周囲の筋肉へアプローチしていきます。
※施術内容は患者様とカウンセリングをした上で決定していきます。一方的に施術内容を決めることはありませんのでご安心ください。
※鍼治療は希望者のみ行いますのでご安心ください。
骨盤に対して
アスリートやバレエダンサーは重心が前方へ移動している姿勢になりやすく、骨盤が前傾位で固まってしまい、骨盤体(腰椎と骨盤)を後傾することが苦手な人が多いです。
骨盤帯(腰椎と骨盤)の後傾方向へのモビリティ(可動性)を向上させていくことで、腰部の筋肉や筋膜への負荷を軽減させることができると考えております。
そして、骨盤の捻れや開きの左右差を確認し、手技療法により骨盤(仙腸関節)を矯正します。
全身へのアプローチに対して
股関節に負荷がかかりすぎているということは、その背景には体の様々な箇所にエラー動作や歪みが隠れています。
例えば、背骨の可動域が少ない、骨盤の前傾が強い、膝の捻れがある、足首の捻れがある、偏平足があるなどです。
それらを整体、矯正手技にて改善することで、股関節に過剰にかかっている負荷を軽減させることができると考えます。
体幹の安定に対して
足を上げる動作など下肢を動かす際には、下肢の筋肉よりも体幹の筋肉(インナーユニット)が先行して働くことが正しい身体の使い方です。
インナーユニットとは腹横筋、横隔膜、骨盤底筋群、多裂筋のことを言います。
体幹の筋肉を先に収縮させ体幹を安定させてから下肢の筋肉を使った方が、体のブレが小さく運動効率がよいためです。
例えば、股関節を屈曲する動きをバレエ動作でたとえると、ドゥバンへ足を上げるときは以下のような順序で働くことが理想的です。
【体幹の筋肉(インナーユニット) ⇒ 大腰筋(腸腰筋、腸骨筋) ⇒ 大腿直筋】
ですが、骨盤帯(腰椎、骨盤)や股関節に問題を抱えている多くの方は体幹の筋肉(インナーユニット)が先行して働くことができず、大腿直筋や大腰筋(腸腰筋、腸骨筋)が先行して働いていることがあります。
このようになってしまうと骨盤帯(腰椎、骨盤)や股関節への負荷が強くなってしまい、ケガに繋がりやすくなります。
当院では、体幹の安定性とモビリティ(可動性)を向上していくためにバレエピラティスを行っています。
保存療法の可能性
関節唇損傷がかなり進んでいて関節唇自体の痛みが強い場合は、保存療法では限界があると思います。
ですが、股関節インピンジメント障害の痛みは関節唇以外の筋肉や軟部組織に原因があることも多くあり、そのような場合でしたら当院で改善できる可能性はあります。詳しくはそれぞれの治療ページをご覧ください。
クライアント様とカウンセリングを行いながら、以下の施術方法を組み合わせ、最善の方法を選択し、早期回復を目指します。